煌く原子の光に飛び込もう
◆
おれもユースタス屋も刃物をいつも身につけているので、久しぶりに会うことができるとよく一緒に刀の手入れをする。お互い億越えの賞金首なので外に出るのが面倒くさい。部屋の中でも特にやることがなくて、ふと気がついたら一緒に刀の手入れをするようになっていた。
古い油を綺麗に拭き取り、刀を新しい油に包ませる。鋼は輝きを取り戻して光を反射させている。これで手入れは完了だ。
「・・・よし、悪くねェな」
ユースタス屋の手入れも終わったようで、自分の手に刀を引きつけていた。鋼の中には鉄が入っているから、よく磁力に引き付くのだろう。
満足げなユースタス屋の手中には鉄の塊がある。おれはその様子をずっと見ていた。
「おいトラファルガー、血ィ出てんぞ。」
そう言われなければ気が付かない位小さな赤い雫が親指にあった。ユースタス屋の目は相手の細かい所まで届く。お前のその繊細さがクルーたちを引きつけるのだろうな。
「よく気づいたな」
「ったくてめェはよそ見しすぎだ」
呆れた顔をしながらおれの手を強引に取り、指を絡ませて親指をざらついた舌で嘗めた。
「鉄くせェ」
「当たり前だろ、ヘモグロビンの味だ」
血と言うとすぐにヘモグロビンが浮かぶ。――昔の仕事の名残だろうな。嫌な職業病が残っちまったもんだ。
ヘモグロビンには鉄が含まれている。
おれの血に中にも、鉄が入っている。
磁力に引き付けられる鉄。
「おれも鉄みたいにお前に引き付けられたらいいのに」
皮膚で覆われて引き付けられないと言うのなら、おれはいくらだって血だらけになる。
お前に引き付けられて、離れられなくなればいい。
おれはお前の傍にずっといたいんだ、ユースタス屋。
「ツンツンヤローのお前が・・・珍しいこともあるんだな」
普段ならこんな女々しいことなんて死んでも言わない。
だが会えない時間が日に日に増えている今、お前と一緒に過ごせる時間は素直でいたくなっちまうんだ。会えないときに後悔したくないからな。
ユースタス屋は強面の顔に似合わねェくらい、優しい苦笑いをしている。
「お前には引き付けられない”理由”があるだろ」
「ああ」
ああ、そうだ。
おれはヘモグロビンの中の鉄だ。
お前にどんなに引き付けられたくたってできやしない。
ヘモグロビンの中の鉄は、様々な原子に取り囲まれている。
大切なクルーと大きな夢。
おれは身動きが取れない。
お前のもとに行くには取り囲む”原子”を捨てるしかない。
おれにはそんなことはできない。
きっと今おれは、どうしようもなく情けねェ顔してんだろうな。手に絡まっていたユースタス屋の手が腕に回り強く引っ張られた。おれはバランスを崩し、ユースタス屋の胡坐の中に倒れこむ。仰向けに倒れるおれの目の前には優しく笑う顔がいる。
「お前は鉄じゃなくて金でいろ」
「あ?」
「高慢で磁石に付くことのない金でいりゃあいい」
そう言ってくしゃり、と髪を撫でられる。
その手が自然と頬に降りてゆき、気づかないうちに伝っていた涙を優しく拭う。
「おれが力ずくでお前を引き付けてやるから」
「・・・高慢は余計だ」
「はははっ、そうやって憎まれ口を叩いてればいいんだよ、お前は」
いつだってユースタス屋は海賊でありキャプテンであるおれを尊重してくれる。
おれの何もかもを大きく包んでくれる。
お前がそう言ってくれるなら
おれはずっと金でいよう
決して酸化される事のない
お前への思いをずっと”ハート”に秘めて
Fin
◆
最後まで読んで下さってありがとうございました。
本当はキドロ祭に載せたので、こちらには掲載するつもりは無かったんですが、どうしても酸化という作品と並べたくてこちらのも載せました^^
キッドの「金」という表現にはお前の気持ちが酸化してほしくないという意味を含ませています。
あと最後の1文にある”ハート”は、「心」と「ハートの海賊団」を掛けています。
キャプテンという立場の裏で、ローがキッドを密やかに思っていれば素敵だと思います。
おれもユースタス屋も刃物をいつも身につけているので、久しぶりに会うことができるとよく一緒に刀の手入れをする。お互い億越えの賞金首なので外に出るのが面倒くさい。部屋の中でも特にやることがなくて、ふと気がついたら一緒に刀の手入れをするようになっていた。
古い油を綺麗に拭き取り、刀を新しい油に包ませる。鋼は輝きを取り戻して光を反射させている。これで手入れは完了だ。
「・・・よし、悪くねェな」
ユースタス屋の手入れも終わったようで、自分の手に刀を引きつけていた。鋼の中には鉄が入っているから、よく磁力に引き付くのだろう。
満足げなユースタス屋の手中には鉄の塊がある。おれはその様子をずっと見ていた。
「おいトラファルガー、血ィ出てんぞ。」
そう言われなければ気が付かない位小さな赤い雫が親指にあった。ユースタス屋の目は相手の細かい所まで届く。お前のその繊細さがクルーたちを引きつけるのだろうな。
「よく気づいたな」
「ったくてめェはよそ見しすぎだ」
呆れた顔をしながらおれの手を強引に取り、指を絡ませて親指をざらついた舌で嘗めた。
「鉄くせェ」
「当たり前だろ、ヘモグロビンの味だ」
血と言うとすぐにヘモグロビンが浮かぶ。――昔の仕事の名残だろうな。嫌な職業病が残っちまったもんだ。
ヘモグロビンには鉄が含まれている。
おれの血に中にも、鉄が入っている。
磁力に引き付けられる鉄。
「おれも鉄みたいにお前に引き付けられたらいいのに」
皮膚で覆われて引き付けられないと言うのなら、おれはいくらだって血だらけになる。
お前に引き付けられて、離れられなくなればいい。
おれはお前の傍にずっといたいんだ、ユースタス屋。
「ツンツンヤローのお前が・・・珍しいこともあるんだな」
普段ならこんな女々しいことなんて死んでも言わない。
だが会えない時間が日に日に増えている今、お前と一緒に過ごせる時間は素直でいたくなっちまうんだ。会えないときに後悔したくないからな。
ユースタス屋は強面の顔に似合わねェくらい、優しい苦笑いをしている。
「お前には引き付けられない”理由”があるだろ」
「ああ」
ああ、そうだ。
おれはヘモグロビンの中の鉄だ。
お前にどんなに引き付けられたくたってできやしない。
ヘモグロビンの中の鉄は、様々な原子に取り囲まれている。
大切なクルーと大きな夢。
おれは身動きが取れない。
お前のもとに行くには取り囲む”原子”を捨てるしかない。
おれにはそんなことはできない。
きっと今おれは、どうしようもなく情けねェ顔してんだろうな。手に絡まっていたユースタス屋の手が腕に回り強く引っ張られた。おれはバランスを崩し、ユースタス屋の胡坐の中に倒れこむ。仰向けに倒れるおれの目の前には優しく笑う顔がいる。
「お前は鉄じゃなくて金でいろ」
「あ?」
「高慢で磁石に付くことのない金でいりゃあいい」
そう言ってくしゃり、と髪を撫でられる。
その手が自然と頬に降りてゆき、気づかないうちに伝っていた涙を優しく拭う。
「おれが力ずくでお前を引き付けてやるから」
「・・・高慢は余計だ」
「はははっ、そうやって憎まれ口を叩いてればいいんだよ、お前は」
いつだってユースタス屋は海賊でありキャプテンであるおれを尊重してくれる。
おれの何もかもを大きく包んでくれる。
お前がそう言ってくれるなら
おれはずっと金でいよう
決して酸化される事のない
お前への思いをずっと”ハート”に秘めて
Fin
◆
最後まで読んで下さってありがとうございました。
本当はキドロ祭に載せたので、こちらには掲載するつもりは無かったんですが、どうしても酸化という作品と並べたくてこちらのも載せました^^
キッドの「金」という表現にはお前の気持ちが酸化してほしくないという意味を含ませています。
あと最後の1文にある”ハート”は、「心」と「ハートの海賊団」を掛けています。
キャプテンという立場の裏で、ローがキッドを密やかに思っていれば素敵だと思います。
PR