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煌く原子の光に飛び込もう
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blue rose

不可能、ありえないもの



原色の煌めきを放つのは美しい花たち。太陽に照らされてより一層その輝きを増している。その中でも一際目立つ花があった。それは、青い薔薇であった。

「その薔薇・・・」
「ええ、新しく入荷したんですよ」
「フッフッフッ、じゃあこれも花束にしてくれ」
「何本になさいますか」
「あるだけ全部だ」

サングラス越しでは目元を窺うことはできないが、花屋の店員は勝気な瞳をしているのだろうと思った。そんな勝気な瞳ができるのは、この客人が女に困ったことがないからである。三度振り返れば国が傾くほどの美女でもこの男は虜にした。虜にできる理由はおそらくこの”マメさ”である。

「ドフラミンゴさんは本当にモテるのねぇ」
「んなこたぁねぇよ」
「こんな花束を家に送られたら誰だってときめいてしまうわ」

店員は無造作に花瓶の中に射されていた青き宝石たちを摘み取った。百本ばかりの薔薇を手際よく花束にしていく。青い花束の隣には積み重ねられた赤い花束が山積みになっている。美しい薔薇たちが夏の鋭い光線に負けじと麗しく微笑んでいる。青い薔薇は赤い薔薇よりも際立って美しい、とドフラミンゴは思った。

「これの宛先はいかがなさいますか」

他の赤い薔薇と同じように、青い薔薇の送り先の住所を店員は尋ねた。いつものことである。ドフラミンゴは時折この花屋を訪ねてはたくさんの美しい薔薇を薔薇のように美しい女性たちへ送る。女の噂は絶えないが、新聞が騒ぎ立てるほど悪い男ではないと店員は密かに思っていた。

「宛先はいらない」

そう言って軽々と青い花束を持ちあげた。薔薇の芳香が腰かける店員の顔を横切った。その様子を見て店員はペン先を口に付けて傾げた。宛先はいらない、とはどういうことであろうか。

「あなたが直々に届けるなんて、めずらしいこともあるのね」
「フフフッ」

この薔薇のように美しいやつなんだよ、あいつはとドフラミンゴは笑った。この男が首ったけになるような絶世の佳人。どんなに想像しても想像しきれない。

「もっとも、こんな花捨てられてしまうだろうがな」

ドフラミンゴが送ったものを捨てる佳人。ますます興味が湧く。
一番欲しいものをこの男は手に入れていないのだ。

「その青い薔薇の花言葉ご存じ?」
「いや」
「不可能」

花の女神フローラは薔薇に生まれ変わった恋人を、死を暗示する不吉な色に染めたくないと青色だけは与えなかったという。
青い薔薇は不可能の象徴。

「不可能が目の前にあるのよ。・・・あなたの恋もきっと、ね?」

洒落た花屋だとドフラミンゴは口角を上げた。
花に塗れた人間の、たいそう洒落た言葉だった。

「釣りはいらない」

そう言って明らかに釣りの方が多くなるはずの札束を差し出す。その情景は、しがない街中の屋台が立ち並ぶ一角の花屋には実に不釣り合いだ。

「こんなにいらないわ!」
「フフフ・・・あんたにはいつも世話になってるからな」
「でも・・・」
「だったらそれで、今度は梅を入荷してくれ」
「梅?」
「フフフ!」

年寄りが好きそうな花をなぜこの男は欲しがるのだろう。梅は首ったけの佳人が好きな花なのだろうか。それだったら、その佳人は老婆?本当にこの男の女の趣味は分からない。

「また来る」
「ご来店、ありがとうございました」

そう言って店員は、恋の成就を祈りながら客の背中を見送った。
ピンク色の派手な上着の右肩上に青い薔薇が妖しく笑っている。
やっぱり、よぼよぼのおばあさんなんかじゃない。
想像しては消えていく佳人はまさに妖艶で、あの男に相応しいと店員は思った。

「あんたたちも苦労するわね」

取り残された赤い薔薇たちにそう囁いた。

Fin


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