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煌く原子の光に飛び込もう
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冬の暁方

砂の海月は西に日は東に

(NARUTO 角都×飛段)
朝方早くに目が覚めた。まだ窓の外は暗くて辺りは静かだ。
深い眠りにつけたためか、意識はしっかりしている。昨日は疲れきって宿に着いてすぐに床についてしまった。
そこまで疲れてしまったのは今回の任務が風の国だったからだ。冬の砂漠というのは予想以上に寒く、砂と共に吹いてくる風が乾ききっていて喉を痛めた。オレ達は要するに『準備不足』だった訳で、目的地に辿り着くまでに全ての体力を費やしてしまったのである。
オレはほのかに浮かび上がる視界の中に、布団から大いに外れた所で体を丸くしながら寝ている飛段を見つけた。こいつは本当に寝相が悪い。
役目を失っていた掛け布団をそっとのせる。そしてふとあることに疑問を持った。

何故、飛段の姿が見えるのだ。
空は真っ暗だと言うのに、辺りは妙に明るい。
窓の外を覗いてみると、すぐにその理由がわかった。
雲ひとつ無い澄んだ空に今にも落ちて来そうな満月。あまりにも色鮮やかで思わず鳥肌が立ってしまった。朝方だというのに、まだ空の支配権は月が独占している。
しかしそのうち太陽が出てきてしまうだろう。
「…」
月と太陽。それから砂漠。
三拍子がものの見事に揃っている。

オレは今、実に「らしくない」ことをしようとしていた。

「飛段、起きろ。」
朝に弱いやつの肩を叩く。何度か叩くと小さくうなった。
「…何だよォ…」
目を擦りながら眠たそうに飛段は体を起こした。
「今から出かけるぞ」
「はぁ?」
理解し難い言葉に眠気も一気に醒めたようだ。
オレは更にやつが理解に困るであろう言葉を続けた。
「月見だ」
「朝っぱらから何言ってんだよ!」
飛段の叫びに耳を傾けずにやつの無造作に置いてあった外套を手渡し、窓を開ける。
「まさかここから飛び降りるのか?」
「あぁ、まだ下は開いてないだろうからな。このくらいの高さなら余裕だろう。」
「全く…訳わかんねーぜ。」
オレは困惑する飛段を横目に窓から外へ出た。やつは仕方無さそうに、黙ってオレの後を追った。

静まり返った街を二人で駆ける。
月は傾き、早朝の道を照らしている。
空気は冷え切っているが、澄んでいてとても気持ちが良い。
「角都」
「何だ」
「満月が綺麗だってのは分かるが、わざわざ外に出る必要があるのか?」
「ついてくればわかる。あともう少しだ」
「…そうかよ」
大きな通りを抜けると、そこはもう砂漠の海だった。
街の外は砂漠が一面に広がっていて風も無く静まり返っている。
夜明けはもう近い。


「あっ…」
「何とか間に合ったな。」

太陽が地平線のかなたから出始めるとき、月は最高潮に光る。
出ずる太陽と沈みゆく満月が同じ空の上で輝いている。
砂漠の中心で見るそれは。
絶景という他無い。

「すっげぇ綺麗…月見ってこのことだったのか。」
飛段が驚いた顔を浮かべて空を仰いでいる。
オレはそんなやつの姿を見て、途端に恥ずかしくなってしまった。
男2人で朝っぱらから何をやっているのだオレ達は。
冷静に考えれば考えるほど、自分の行動が恥ずかしく思えてくる。
何で飛段をこんな場所に連れてきたんだ。
オレは一体何故こんなことをしてしまったのだろう。
空を見続ける飛段に何か言おうとしたが、言葉が見つからない。

「角都」

そんなオレを韓紅色の瞳が見つめてくる。
顔をその瞳と同じくらい赤らめながら。

「ありがとうな」

屈託の無い笑顔をするやつは、太陽や月よりも遥かに輝いて見えた。
オレはお前のその顔が見たかったのだ。
だから、こんな柄にも無いことをしてしまったのだ。

「ああ」

オレは一言返すのがやっとだった。
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