煌く原子の光に飛び込もう
朝方のシンデレラ
まだ魔法を解かないでくれ
朝が来てしまう前に
もう一度だけ
まだ魔法を解かないでくれ
朝が来てしまう前に
もう一度だけ
◆
朝早くユースタス屋の船を出た。
眠る無防備な3億越えの首にそっと口付けを残して。
まだ空は薄暗く、町の街灯が点々と光る。
空気はとても澄んでいて気持ちがいい。すぅっと大きく息をする。綺麗な空気が体内に送り込まれる。
ちょっとだけ木の青い匂いを感じた。シャボンディ諸島は木々が多いからだろうか。
「あぁ、さびい」
ぼそっと独り言を言う。冷たい空気が少し寒かった。
西の空を見上げれば赤い月がまだ出ている。
不気味なくらい美しい月と早朝の街。
そこは魔法の国。その中にいるおれ。
夜更かしをしてはしゃぎ終わった子供のような気持ちになる。
夜の帳が開けられてしまったような。
せっかくの魔法が解けてしまったような。
幸せな時間は過ぎるのは早くて、すぐに今日が来てしまう。
ユースタス屋との魔法の時間。
互いの仲間もそれを知らない。
こっそり2人で隠し持っている魔法の時間。
刹那な時間を2人で楽しんでいる。
魔法が解けてしまえばユースタス屋はいない。
昼間は敵同士。
互いに冷たい仮面を被って、つまらない茶番を演じている。
それは仲間のため、自分たちのため。
夜の魔法は切なすぎて身に沁みる。
音を立てないように自分の船へ潜り込む。
夜の魔法を解かれてしまったおれ。
ユースタス屋はもういない。
自室のドアを静かに開けて忍び込む。
すぅっと大きな息を吐く。
「!」
体の中に入ってきたのはユースタス屋の匂い。
夜にしか感じることのない匂い。
閉じた空間の中へ入ってようやく気がついた。
「ユースタス屋」
そっとやつの名前を呟く。
まだ夜の魔法は解かれていなかったのだ。
夜が消えてしまう前に
朝が来てしまう前に
もう一度だけ魔法にかけてくれ
おれはベッドに入り体を毛布に包んで、わずかな魔法にすがりついた。
Fin
◆
最後まで読んでくださってありがとうございます。
仲間達にも内緒で、密会をしているキッドとロー。気づかれない様に朝早くローはキッドの船を出ます。
そして、自室へ帰って空気を吸うとキッドの残り香がついているわけですね!!! 嬉しいけれど切ないローなのでした。
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