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煌く原子の光に飛び込もう
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一緒に来るか

”一緒に来るか”という言葉に救われた大バカ野郎は
孤高の王が玉座から降りてくるのを待っているんだ


ロー船長を支える彫師・キャスケットの独白。
HEARTのお話の前でもあり、暴れちゃってのお話の後でもあります。



目の前の王冠は今日の戦利品だ。冠の湾曲した最もランプに近い部分が光を一点に集めて白くなっている。その白い星の向こうにおれは1人の王を見た。

船長と互角に戦える輩は北の海でもいたかもしれないが、崇高な思想を持つ人間はいなかった。あの海は現実主義者の下らない思想ばかりが蔓延していた。そんな中船長はいつだって理屈や羨望、そして嫉妬の檄を口角を上げてかわしていた。たいそう敵にはそれが傲慢で勝気に見えたことだろう。外での船長は、強くて負けず嫌いで、極めて傍若無人なエゴイストだった。

だけど、本当のあの人はそんなんじゃない。

仮面という仮面を全てぶち壊したら
そこには孤高の王がいる
一面の銀世界で
たった一人で玉座に佇んで
重い重い王冠を身につけている

おれにはその顔がいつも寂しそうに見えて仕方がなかった。たった一人であの人は自分の思想を頑なに守ってきたのだ。孤高の王はクルーの前でも決して弱みをみせない。確かにおれなんかが共鳴できるような人間ではないのだが、時おり孤独な瞳を覗かせたとき、もしおれがあの人と共鳴することができたのならどんなにいいだろうと思っていた。全く、この船に一番長くいるのに船長の身も心も支えてやれないなんて皮肉なもんだよなァ。


寝静まりかえる真夜中の船内にドアをたたく音が微かに響いた。はいと小さめの声でドア越しに言うと、船長が何とも言えない顔をして入ってきた。

「こんな夜遅くにお前の部屋に来るなんて久しぶりだなァ」
「あんたの指に墨を入れた以来だ」
「よく覚えてるな」
「当たり前だろ・・・あんたに施した墨なら全部覚えているさ」

船長は自身の指先を見つめて笑った。その手には黒く鮮明に死の文字が刻まれている。誰もが忌み嫌うその言葉を船長は身に纏ったのだ。彫ったときに死を喜んで受け入れると笑ってみせた船長が今でも脳裏に浮かぶ。

そのDEATHの文字も、両腕の消えない証も、どの文身を入れたときのことだって克明に覚えている。指の先まで死を恐れぬこの人はおれにとって唯一無二の人だ。

「全部覚えているのか」
「あ、ああ・・・」

まさかそこを言及されるとは思ってもみなかったので戸惑ってしまう。船長は一瞬だけなにか言いたげな顔をしたが、すぐに表情を戻した。

「太股にHEARTを刻んで欲しい」
「ふともも・・・?」
「誰にも知られちゃいけねェものなんだ」

意味深な船長の発言を汲み取るには、おれは彫り師を長くやりすぎていた。おれだって伊達に彫り師をやっていない。相手がどういう理由で身体に墨を入れたいのかなんて手にとるようにわかってしまう。

「彫ってくれるか」
「あんたのためなら喜んで」
「・・・海賊らしくねェ下らない感情を刻めって言ってんだぞ。お前のその腕は崇高な思想を刻むためにあるんじゃねェのかよっ」

頼んだくせに自分のその行動を否定する言葉を発した船長は、今まで見たことがないくらい不安げだった。船長の顔を見て喉の奥が苦しくなる。

あんたのためならいくらでも彫るに決まっているじゃないか。
たとえそれが、誰にも言えない密やかな恋のためだとしても。

「海賊らしからぬ心があるから、おれがあんたを嫌いになるとでも思ってんのか」
「・・・」

そうじゃないのかと言わんばかりの沈黙を続ける船長をじっと見つめる。歪む眉の下には孤独に潤む瞳。
なんで。なんでそんな顔をするんだよ。全身から途方もなく感情が溢れ出して来る。
あんたはハートの海賊団の船長なんだぞ。あんたはクルーを愛してやまない船長なんだぞ。もっと自分に自惚れていてくれよ。”こいつならバカみたいにおれについてくるだろ。”そうおれのことを思っていてくれよ。おれはあんたの”一緒に来るか”という言葉に救われた、あんたを信じることしか能のない大バカ野郎なんだから。

「おれの前でそんな顔するなよ」

その溢れ出した感情は自然とおれの腕を船長の頭に回させた。壊れ物を扱うようにしっかりと船長の頭を抱く。
頭上にある重い王冠を脱ぎ捨てて、早く玉座から降りてきてくれよ。

「だってあんたは、おれの大切な仲間じゃないか。」

Fin



需要ないのにこれに1週間くらいかけてしまいました。こんなに小説に時間かけたの初めてかもしれません。原作のキャスケットさんのコマを死ぬほど読んで浮かんだキャラ像がこれです。なんて残念クオリティ・・・ちょっと傷心(´;ω;)キャラがわからない人を書くのは難しいな><
最後まで読んで下さってどうもありがとうございました。
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