煌く原子の光に飛び込もう
◆
「そこにいたのか」
膝を抱え、餓鬼みてェに泣いて蹲っていたおれはその声に驚き顔をあげた。マングローブが生い茂る暗闇の中、目の前には”炎”がいた。自分の心を焦がされた”炎”だった。
「ユースタス屋・・・」
「大丈夫か?」
差しのべられた手を素直に握りしめる。思うがままに泣きじゃくり、落ち着きを取り戻した口からは自然と言葉が零れた。
「大丈夫だ。悪かったな」
「気にするな」
先ほどの卑屈な感情が嘘のように消えていくのを感じた。と同時にどうしようもない気まずい気持ちが頭をよぎる。静寂を破ったのはユースタス屋だった。
「トラファルガー、おれたちの恋人は海だろ?」
おれは自分の心の”炎”に夢中になりすぎてしまっていたんだ。おれはそれによって浮き彫りになる”影”を見逃していた。ユースタス屋のその言葉はその”影”を気づかせてくれた。
おれは海賊なんだ。
時に温かで時に冷たいこの広大な海に己の全てを懸けると誓った身だ。海賊になると決めた日から、ワンピースを探し求めるという気持ちは少しもぶれちゃいねェ。
そして、何よりもおれは船長なんだ。
おれに命を懸けてついて来てくれる大切なクルー達がいる。おれはそんなクルーたちの命と夢を全部一身に受け持っている。
なぁ、ユースタス屋。
おれのこの感情がクルーを裏切るような行動を起こしてしまうであろうことをお前は知っていたんだな。
お前とおれが恋人同士なんてとんだ笑い話だ。そんなことになったら、おれのクルーとお前のクルーはどうなっちまう?おれは船長失格だ。クルーのことを微塵も考えずに、勝手な行動をしそうになってしまっていた。もうおれ達は自分だけの自分じゃないんだよな。おれ達はクルーの望む船長でなきゃいけねェんだ。
それを考えたら――
「おれ達は敵同士でいなくちゃいけねェんだな」
敵同士。
その言葉を発した時、おれはその現実に押し潰されそうになった。おれはどうしようもなくユースタス屋が好きだ。おれはそんなお前を敵だなんて本気で見なせるのか?
青ざめるおれにユースタス屋は違う、と笑う。
「おれはお前とそんな恋人を取り合うような仲でいたいんだ。一生のな」
それが、ユースタス屋の精一杯の告白だと気づくのにそう時間は掛からなかった。一生の”仲”という表現が不思議なくらい自然に自分の心を納得させた。”敵”という言葉を使わないやつの優しさにまた涙が流れそうになった。
やっぱりお前はおれの”炎”だったんだな。
ユースタス屋は”影”からおれを救い出してくれた。
おれの心を燃やし、おれに光を与えてくれたんだ。
「ユースタス屋」
「トラファルガー」
おれ達は自然と口付けを交わしていた。
これが、最初で最後の口付けになると思った。
そうだなユースタス屋。
おれ達は海の中で一生の仲でいよう。
この先、戦うことがあったって
この先、どちらかが死ぬことがあったって
おれ達は一生の仲なんだ。
この愛してやまない海が死なない限り――
Fin
◆
最後まで読んで下さってありがとうございました。
あとがきは後ほどアップします。
「そこにいたのか」
膝を抱え、餓鬼みてェに泣いて蹲っていたおれはその声に驚き顔をあげた。マングローブが生い茂る暗闇の中、目の前には”炎”がいた。自分の心を焦がされた”炎”だった。
「ユースタス屋・・・」
「大丈夫か?」
差しのべられた手を素直に握りしめる。思うがままに泣きじゃくり、落ち着きを取り戻した口からは自然と言葉が零れた。
「大丈夫だ。悪かったな」
「気にするな」
先ほどの卑屈な感情が嘘のように消えていくのを感じた。と同時にどうしようもない気まずい気持ちが頭をよぎる。静寂を破ったのはユースタス屋だった。
「トラファルガー、おれたちの恋人は海だろ?」
おれは自分の心の”炎”に夢中になりすぎてしまっていたんだ。おれはそれによって浮き彫りになる”影”を見逃していた。ユースタス屋のその言葉はその”影”を気づかせてくれた。
おれは海賊なんだ。
時に温かで時に冷たいこの広大な海に己の全てを懸けると誓った身だ。海賊になると決めた日から、ワンピースを探し求めるという気持ちは少しもぶれちゃいねェ。
そして、何よりもおれは船長なんだ。
おれに命を懸けてついて来てくれる大切なクルー達がいる。おれはそんなクルーたちの命と夢を全部一身に受け持っている。
なぁ、ユースタス屋。
おれのこの感情がクルーを裏切るような行動を起こしてしまうであろうことをお前は知っていたんだな。
お前とおれが恋人同士なんてとんだ笑い話だ。そんなことになったら、おれのクルーとお前のクルーはどうなっちまう?おれは船長失格だ。クルーのことを微塵も考えずに、勝手な行動をしそうになってしまっていた。もうおれ達は自分だけの自分じゃないんだよな。おれ達はクルーの望む船長でなきゃいけねェんだ。
それを考えたら――
「おれ達は敵同士でいなくちゃいけねェんだな」
敵同士。
その言葉を発した時、おれはその現実に押し潰されそうになった。おれはどうしようもなくユースタス屋が好きだ。おれはそんなお前を敵だなんて本気で見なせるのか?
青ざめるおれにユースタス屋は違う、と笑う。
「おれはお前とそんな恋人を取り合うような仲でいたいんだ。一生のな」
それが、ユースタス屋の精一杯の告白だと気づくのにそう時間は掛からなかった。一生の”仲”という表現が不思議なくらい自然に自分の心を納得させた。”敵”という言葉を使わないやつの優しさにまた涙が流れそうになった。
やっぱりお前はおれの”炎”だったんだな。
ユースタス屋は”影”からおれを救い出してくれた。
おれの心を燃やし、おれに光を与えてくれたんだ。
「ユースタス屋」
「トラファルガー」
おれ達は自然と口付けを交わしていた。
これが、最初で最後の口付けになると思った。
そうだなユースタス屋。
おれ達は海の中で一生の仲でいよう。
この先、戦うことがあったって
この先、どちらかが死ぬことがあったって
おれ達は一生の仲なんだ。
この愛してやまない海が死なない限り――
Fin
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最後まで読んで下さってありがとうございました。
あとがきは後ほどアップします。
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