煌く原子の光に飛び込もう
余酔
今夜だけは
甘えさせてくれ。
今夜だけは
甘えさせてくれ。
◆
深夜の繁華街。ネオンサインが光を放っている。 蠢く人間は酔っぱらいか娼婦ばかりだ。
「お兄さん私と遊びましょ」
道端で急に後ろから話しかけられた。振り返ると1人の娼婦が佇んでいた。 真っ白な肌に深紅の唇が妖しく煌めく。
たゆたうその姿はまさに妖艶という他ない。
「ねぇったら」
「…」
甘ったるい声をおれの耳に吹き掛ける。 寄り添うように肩をおれに預けてくる。
「うせろ」
冷たい視線を娼婦に向ける。娼婦は自分の”色”が効かなかったことに驚いたようだった。
一度睨みつけると娼婦はこの場を去っていった。
「ふん」
どうして娼婦はあんな風にできるのだろう。
娼婦の場合はカモだろうが、 そう言った好意対象へのあの絶対的にひれ伏した姿。 己の全てを委ねるような妖しい姿。甘い言葉を遊ばせながら、 思うがままに対象への性的な感情をむき出しにする。
どうしてあんなことできるんだ。
おれには到底できない。
娼婦の用な姿をあいつに向ける自分を想像してみると、 途方もない吐き気を感じた。そんな吐き気を感じつつも、どこか吐き気を感じてしまう自分に苛立ちを覚えた。あの娼婦のように素直になれば、もっとあいつに近づけるのだろうか。
繁華街の外れに、ぼんやりと灯りを点す酒場がある。
静かにドアを開けると、薄暗い店内に客が1人。
「よぉ」
カウンターにいた客がこちらを見る。
ユースタス屋は笑みを浮かべていた。
おれはその笑顔に応えるのがなんだか照れくさくて無愛想な顔のままやつに近寄る。・・・また素直になれなかった。これで何度目だろう。
「・・・女に絡まれたんだ」
「この辺は風俗が多いからな。お前は先にそこのソファに座ってろ。」
ユースタス屋はバーテンダーにすぐさま酒を頼んでくれた。
おれは、またあの娼婦の姿を思い出していた。
妖艶で絶対的に自分の全てを委ねる姿。
あんなに素直になれたらどんなにいいだろう。
おれは素直に気持ちをぶつけてくるユースタス屋にどうしても応えることができない。
甘えたり、喜んだり、そんな自分の姿を見せるのが恥ずかしい。
そんな姿はおれらしくない。
「ほらよ」
「あぁ」
渡されたブルドックを一気に飲み干す。
グレープフルーツの爽やかな酸味とウォッカの熱さが体に沁み込んでいく。
「いい飲みっぷりだなぁ、オイ」
「今日は酔いたい気分なんだ」
「お前の口からそんな言葉が出るとはな・・・ま、好きなだけ飲めよ」
それからしばらく酒を飲みながら他愛のない話をした。
ユースタス屋の話はどれもこれもおれの知らない海の話でとても面白かった。
でも、笑えるような話でも真剣な顔で聞いてしまう自分が嫌だった。
素直になれない自分を忘れたくて、酒はどんどん進んでいった。
「でよ、そこのオヤジが・・・」
「・・・」
「トラファルガー?」
だめだ、全身が気だるい。
頭がうまく回転しない。
なんだか無性に何かに寄りかかりたい衝動に駆られた。
本能のままに、ユースタス屋に寄りかかった。
やつはそっと上着の中へおれを入れてくれた。
「もっと寄れよ」
やつの黒いマントに包まれて
やつのたくましい腕に抱かれて
やつの酒焼けした低い声を耳元で聴いて
背筋の笑いが止まらなくて
もうどうしようもないくらいやつが愛しくて
好きで好きで好きで仕方が無くて
素直になっていく自分がユーステス屋の中にいる。
やつに寄り添う。
「えらくしおらしいじゃねーか」
「・・・」
うまく言葉が発せない。自分が酔っているというのは間違いなかった。
余酔の戯れだ。
もうおれにはお前しか見えないんだよ、キッド。
「・・・キッド、お前が好きだ」
「言われなくてもわかってら」
「おれをもっと強く抱いてくれ」
「言われなくても抱いてやるよ」
「ロー、愛してるぜ」
今、この時が永遠に続けばいいのに。
この夜が明けなければいいのに。
こう思うのも、余酔の戯れなのだろか。
Fin
◆
初キドロ。
ローは自分のツンツン具合にとことん苦しんでると良い。
そしてキッドはそんなローのことをとことんわかってあげていると良い。
「言われなくてもわかってる」
そんな言葉でローの全てを包み込んであげていれば良い。
深夜の繁華街。ネオンサインが光を放っている。
「お兄さん私と遊びましょ」
道端で急に後ろから話しかけられた。振り返ると1人の娼婦が佇んでいた。
「ねぇったら」
「…」
甘ったるい声をおれの耳に吹き掛ける。
「うせろ」
冷たい視線を娼婦に向ける。娼婦は自分の”色”が効かなかったことに驚いたようだった。
一度睨みつけると娼婦はこの場を去っていった。
「ふん」
どうして娼婦はあんな風にできるのだろう。
娼婦の場合はカモだろうが、
どうしてあんなことできるんだ。
おれには到底できない。
娼婦の用な姿をあいつに向ける自分を想像してみると、
繁華街の外れに、ぼんやりと灯りを点す酒場がある。
静かにドアを開けると、薄暗い店内に客が1人。
「よぉ」
カウンターにいた客がこちらを見る。
ユースタス屋は笑みを浮かべていた。
おれはその笑顔に応えるのがなんだか照れくさくて無愛想な顔のままやつに近寄る。・・・また素直になれなかった。これで何度目だろう。
「・・・女に絡まれたんだ」
「この辺は風俗が多いからな。お前は先にそこのソファに座ってろ。」
ユースタス屋はバーテンダーにすぐさま酒を頼んでくれた。
おれは、またあの娼婦の姿を思い出していた。
妖艶で絶対的に自分の全てを委ねる姿。
あんなに素直になれたらどんなにいいだろう。
おれは素直に気持ちをぶつけてくるユースタス屋にどうしても応えることができない。
甘えたり、喜んだり、そんな自分の姿を見せるのが恥ずかしい。
そんな姿はおれらしくない。
「ほらよ」
「あぁ」
渡されたブルドックを一気に飲み干す。
グレープフルーツの爽やかな酸味とウォッカの熱さが体に沁み込んでいく。
「いい飲みっぷりだなぁ、オイ」
「今日は酔いたい気分なんだ」
「お前の口からそんな言葉が出るとはな・・・ま、好きなだけ飲めよ」
それからしばらく酒を飲みながら他愛のない話をした。
ユースタス屋の話はどれもこれもおれの知らない海の話でとても面白かった。
でも、笑えるような話でも真剣な顔で聞いてしまう自分が嫌だった。
素直になれない自分を忘れたくて、酒はどんどん進んでいった。
「でよ、そこのオヤジが・・・」
「・・・」
「トラファルガー?」
だめだ、全身が気だるい。
頭がうまく回転しない。
なんだか無性に何かに寄りかかりたい衝動に駆られた。
本能のままに、ユースタス屋に寄りかかった。
やつはそっと上着の中へおれを入れてくれた。
「もっと寄れよ」
やつの黒いマントに包まれて
やつのたくましい腕に抱かれて
やつの酒焼けした低い声を耳元で聴いて
背筋の笑いが止まらなくて
もうどうしようもないくらいやつが愛しくて
好きで好きで好きで仕方が無くて
素直になっていく自分がユーステス屋の中にいる。
やつに寄り添う。
「えらくしおらしいじゃねーか」
「・・・」
うまく言葉が発せない。自分が酔っているというのは間違いなかった。
余酔の戯れだ。
もうおれにはお前しか見えないんだよ、キッド。
「・・・キッド、お前が好きだ」
「言われなくてもわかってら」
「おれをもっと強く抱いてくれ」
「言われなくても抱いてやるよ」
「ロー、愛してるぜ」
今、この時が永遠に続けばいいのに。
この夜が明けなければいいのに。
こう思うのも、余酔の戯れなのだろか。
Fin
◆
初キドロ。
ローは自分のツンツン具合にとことん苦しんでると良い。
そしてキッドはそんなローのことをとことんわかってあげていると良い。
「言われなくてもわかってる」
そんな言葉でローの全てを包み込んであげていれば良い。
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